朝の洗面所。
いつものように体重計に乗る。そして、思わず心の中で小さくガッツポーズをした。
10月20日。
あの日からずっと、体重計の針は動かなかった。
まるで壊れているんじゃないかと疑うほど、毎朝同じ数字を見せつけてくる。「本当にこのまま続けて意味があるのかな」——そんな声が、心の隅でささやく。
でも、どこかで読んだ。停滞期というものがあると。
体が変化に驚いて、必死に今の状態を守ろうとするのだと。
「今は停滞期。腐らない、投げ出さない、淡々と続けよう」そう自分に言い聞かせてから、約3週間が過ぎていた。
変わらない毎日の中で
食べる量は変えていない。それどころか、運動はむしろ増やしている。
11月に入ってから筋トレも始めた。
胸、背中、太もも、お尻。大きな筋肉を鍛えるといいらしい。決めた回数を、ただ淡々とこなす。
最初の頃は、翌日になると筋肉痛で体が重かった。「ああ、効いてるんだな」と、少し嬉しかった。でも2~3日おきに続けるうちに、体が慣れてきたのか、あの激しい筋肉痛は来なくなってちょっと不安な部分もある。
それでも、筋トレを始めて良かったことはある。
背中やお腹周りに意識が向くようになったのだ。
友達に言われたことがある。「腰、曲がってるよ」と。その時はハッとした。
確かに、いつの間にか猫背になっていた。
それから、歩く時には姿勢を意識するようになった。そして筋トレを始めて、もうひとつ気づいたことがあった。
背中の筋肉が、驚くほど衰えていたのだ。鏡に映る自分の後ろ姿が、少し情けなく見えた。
停滞という名の試練
筋トレに即効性なんてない。それは分かっている。だから、とにかく3ヶ月は続けようと決めた。でも正直なところ、他に打つ手が思いつかなかった。
ただ、この停滞期を乗り切るために、生活のリズムを崩さずに、淡々と日々を過ごしていた。
以前の私なら、きっと違っただろう。
「ここまで減ったんだから、まぁいっか」。そう言って、ちょっとだけご褒美と称して、好きなものを食べていたはずだ。ケーキ一個くらい、いいじゃない。ラーメンくらい、たまにはね。そうやって、気づけば元の生活に戻っていく。
でも今回は、何かが違った。
夜、寝る前に本やYouTubeで動画を見た。
「なんで停滞期が起こるんだろう」
調べれば調べるほど、様々な情報が出てくる。
中には矛盾するものもある。
それでも、一つ一つ自分の生活と照らし合わせてみた。
そして、あることに気づいた。
エネルギーという名の贈り物
あすけんというアプリで、私は「ゆるい糖質制限ダイエット」という項目を選んでいた。
でも運動を始めた今、設定を見直すべきかもしれない。
そう思って、PFCバランスという項目に変更してみた。
山に行った日のことを思い出す。
タンパク質ばかり食べて、気分が悪くなったあの日。あの時、体が教えてくれたのだ。
エネルギー源である炭水化物も、必要なんだと。
今、私の体は防御反応に入っている。
「これ以上痩せたら危ないよ」と、必死に脂肪を守ろうとしている。
それを解放してあげるには、ただカロリーを増やせばいいわけじゃない。体が必要としているエネルギー源を、きちんと与えてあげることが大事なんだ。
そう考えて、1日1食だった玄米ご飯を2食に増やしてみた。
「え、炭水化物増やして大丈夫なの?」と思うかもしれない。私も最初はそう思って怖かった。でも、調整方法がある。その分、脂質を控えめにすることにしたのだ。
揚げ物は避けて、焼き物に変更。いつも油で炒めていた野菜は、蒸してみることにした。
同じ食材でも、調理法を変えるだけで、脂質はぐっと抑えられる。こうして少しずつ、食生活を調整していった。
炭水化物を1食増やしても、カロリーは思ったほどオーバーしない。
「とりあえず、こんな感じでやってみよう」。そう思って、試してみることにした。
数字が教えてくれること
当然のように、あすけんに毎日、食事内容を記入する。
すると、カロリーや栄養素が即座に表示される。
タンパク質が足りない。
脂質が多い。
ビタミンが不足している。
そういったフィードバックが、すぐに返ってくる。
これが、私にとって一番の力になった。
数字は嘘をつかないし、曖昧じゃない。
「たぶん大丈夫」とか「これくらいなら」という感覚ではなく、明確に、はっきりと教えてくれる。
だから改善できる。次の食事で調整できる。
人は、見えないものを続けるのは難しい。
でも、見えるものなら続けられる。
そして、ほんの小さな変化
昨日の朝。体重計に乗ると、針が少し左に動いていた。ほんの少しだけ。
でも、確かに動いていた。
「もしかして……」
今朝も乗ってみた。また、ほんの少し左に。
たった2、3日のこと。まだ何とも言えない。
でも、確かに感じるのだ。停滞期が抜けたんじゃないか??という感覚を。
体が、やっと「大丈夫だよ」と言ってくれたような、そんな気がする。
洗面所の鏡に映る自分を見る。少し、背筋が伸びているような気がした。
しばらく、このまま続けてみよう。
体重計の針が、また止まるかもしれないけど、ちょっとの兆しを大切に、焦らない。ただ続けていく。
朝の光が、洗面所に差し込んでいる。
ふふふふ…今日も、いい一日になりそうだ。
