「おーー、寒っ!」
思わず声が出た。
先日まで半袖を着ていたというのに、気づけば気温は一桁台。
日中でも15度前後という日々が続いている。秋をすっ飛ばして、いきなり冬が来てしまったような、そんな気分だ。
それなのに、秋晴れと呼べるような良い天気は少なくて、特に週末になると決まって空はどんよりと曇る。
山に行く予定も立てられず、家でうじうじと過ごす時間が増えた。
こうしてみると、一人ででも山に行けるということが、私にとってどれほどのストレス発散になっていたのか、改めて気づかされる。
そんな日々の中で、ふと気づく。
ああ、お鍋が恋しい季節になったのだな、と。
食卓には、いつの間にか温かい料理が並ぶようになった。
とはいえ、まだ白菜はシャキッとしすぎていて、お鍋に入れるととろっとして、あの甘みには至っていない。
スーパーを覗くと、キャベツやレタス、小松菜、水菜といった葉物野菜が、比較的安く売られている。
だから私は今、コールスローやグリーンサラダをよく作っている。また、今から旬のブロッコリーと蓮根のペペロンチーノ風温野菜も、よく食卓に上る。
今だけの、この季節だけの味を、逃さないように。
旬が教えてくれたこと
「旬」を、私は大切にしている。
先日、友人を招いた時のことだ。イカとブロッコリーと蓮根のペペロンチーニを作ってランチに出した。
「これ、おいしい!」友人は目を輝かせて言った。

嬉しくなって、その場で作り方を教えた。
作り方は、驚くほどシンプルだ。
イカは内臓を取り出し、胴と足を輪切りに。
ブロッコリーは小房に分けて電子レンジで軽く加熱。
蓮根は薄切りに。
オリーブオイルでニンニクと鷹の爪を香り立たせたら、蓮根を炒め、イカを加えて蓋をして蒸し焼きに。
最後にブロッコリーを加えて、塩で味を整える。ほんの数分で完成する。
イカの旨味がオリーブオイルに溶け出して、それが野菜に絡む。シンプルだからこそ、素材の味が際立つ。
ところが後日、友人から連絡があった。
「作ってみたんだけど、そんなに美味しくなかった……」
詳しく聞いてみると、彼女は家にあった冷凍ブロッコリーを使ったという。
解凍して炒めたら、歯ごたえがなく、蓮根も炒めすぎて、全体的にべちゃっとした仕上がりになってしまったそうだ。
ああ、そうか。そこだったのか。
私と彼女の料理の違い——それは、「旬」だった。
私が作ったのは、夏の暑さが落ち着いて秋に入り、ブロッコリーや蓮根が美味しくなってきた頃。
その時、スーパーで安く売られていた旬の野菜を選んだ。
それだけのことだった。
料理に、縛りはいらない
同じ「イカのオリーブオイルの炒め物」でも、夏ならズッキーニやトマト、ナスを合わせる。これから寒くなれば、白菜や大根と組み合わせてもいいだろう。
私が料理を作る時、「これでなければならない」という縛りはない。
「イカとオリーブオイルに、今は何の旬の野菜が合うかな?」——そう考える方が、ずっと楽しいし、美味しい。
以前、夏に作ったナスの煮浸しを気に入ってくれた友人が、秋になって「またあれ作って!」とリクエストしてくれることがある。
けれども私は、いつも断る。
「旬じゃないから、今は作れないな」と。
秋以降のナスは皮が硬くて、あの夏の柔らかさはもうない。オクラも同じだ。
旬のものは、安くて美味しい。
そして何より、季節を味わうことができる。
不思議なもので、旬の食材を使うと、料理の腕がぐっと上がったような気さえする。素材が、勝手に美味しくしてくれるのだ。
秋の名残りを、もう少しだけ
お鍋やおでんも恋しい季節だけれど、もう少し、秋の名残りを感じていたい。
そう思いながら、今日もまた、冬に入る冬眠の熊のように葉物野菜のサラダを堪能する。
これが最後になるかもしれない、柔らかくてシャキッとした食感を、噛みしめるように。
季節は移ろい、また次の旬がやってくる。
その繰り返しの中に、小さな豊かさがある。
