体重計の数字が、まるで時計の針が止まったかのように動かない。
ここ一週間、徐々に減りかけていた体重は、ピタリと同じ数値を指し示している。
グラフを眺めても、ただ横ばいの線が続くばかり。
「おいおい」と、思わず小さくため息が漏れる。
これが、噂に聞いていた停滞期というものか。
停滞期もいつも通り
少しテンションは下がったものの、不思議と焦りはなかった。
「まぁ、こういう時期もあるよね」と、自分に言い聞かせる。
ダイエットを始めた頃の私なら、きっとここで心が折れていただろう。
でも今は違う。
その日の朝、いつものように金剛山に登ろうと準備していた。
しかし天気予報は午後から雨。明日も雨。最近の週末は、まるで雨に狙い撃ちされているかのようだ。
「今日はゆっくり過ごそうかな…」
そう思いかけた瞬間、ふと思い立った。そうだ!三輪にある大神神社へ登拝に行こう、と。
奈良県桜井市にあるこの神社は、日本でも珍しい、山そのものをご神体とする場所だ。
午前中に登拝の手続きを済ませれば、神聖な山頂まで登ることができる。ただし、写真撮影は禁止。飲食も禁止。
ただひたすらに、神様の山を登る。それだけだ。
ダイエットは生活の一部になっていた
二ヶ月ぶりの登拝。途中、ばったりと東京から観光に来た友人に出会った。
「ダイエット、頑張ってるね」
その言葉に、私は少し戸惑った。
頑張っている?
というより、これがもう普通になっているから。毎日ランニングをする人にとって、走ることが生活の一部であるように、私にとってダイエットもうルーティーンになっていた。
数分立ち話をして別れを告げ、登拝の手続きを済ませた。
成果が出てる!
もともと山登りは諦めていたのに、こうして登れることになるなんて。これも神様のご褒美かもしれない。
登り始めると、体が軽い。
いつもなら途中で休憩する場所も、今日は足を止めることなく通り過ぎる。
秋の風が心地よく、汗はにじむものの、夏のようにたらたらと流れることはない。
中間地点で少し水を含んだだけで、ほぼノンストップで頂上まで登り切った。
コースタイム、約45分。
お〜〜〜!今までで一番早い。
素直に嬉しかった。
下山も、雨が降りそうだったので足早に。すると、すれ違う人、すれ違う人に声をかけられる。
「軽やかですね」
「お先にどうぞ」
昔の私だったら、こんなふうに言われることなんて想像もできなかった。
心が、ふわりと躍る。
変化は数字だけでは無かった
体重は減っていない。数字は、相変わらず動かない。
でも、確実に何かが変わっている。
毎週どこかの山を登り続けているおかげで、コースタイムは短くなった。
息切れも少なくなった。
多分体力がついてきたのだ。
目には見えない変化が、確かに私の中で起きている。
停滞期は、寂しい。それは正直な気持ちだ。
けれど、無理もせず、楽しみながら続けられている今の生活が、私は好きだなぁ。
きちんとした栄養を摂る食習慣。
時々山に登るルーティーン。
これを、しばらく続けていこうと思う。
この先、私の体はどんなふうに変わっていくのだろう?
数字には表れない変化を、私はもう知っている。
だから、焦らない。ただ、今日と同じように、明日もやる。
それだけだ。
停滞期の向こう側に、きっと新しい景色が待っている。
でも、やっぱり痩せたい!
帰り道、秋の風が少し肌寒くなってきた。
ふらりとユニクロに立ち寄る。
店内をぶらぶらと歩いていると、掘り出し物のカゴに半額になっているズボンが目に入った。デザインも色も、ちょうど欲しかったもの。
手に取って、サイズを確認する。
そして、小さくため息をついた。
「あぁ……」
もう少し痩せてたら、この掘り出し物、買えるのに。
ズボンをカゴに戻しながら、心の中で呟いた。
「今日は、停滞期脱出の願掛けだ」
やはり痩せたい!という気持ちは、全く変わっていなかった(笑)
