野沢温泉でのワークショップ。「10年後のなりたい自分を具体的に設定し、実際にその未来に立ってみましょう」という講師の声が響いた。
私は自信満々だった。ビジネスで培った目標設定力には自信がある。具体的で達成可能な目標を設定し、そこに向かう戦略を練ることは既にこのワークショップに参加する前に決めていたのです。
しかし、いざ未来の自分の場所に立ってみると—何も見えなかった。
強いて言えば、まっすぐな一本道。そして左右には真っ暗なスクリーン。
映像どころか、何の手がかりもない真っ暗闇が広がっているだけだった。「これで合ってるの?」という違和感が胸の奥でざわついた。
ワーク終了後、ちょっと恥ずかしながら講師に質問した。「私には何も見えませんでした。これって正常ですか?」
講師は優しく微笑んだ。「ああ、みっちゃんも思考系だよね。実は私も最初はそうだったんですよ。頭で先に考えてしまうので、映像が浮かんでこないんです」
思考系人間の正体
その言葉で、あぁ…ちょっとホッとした。
確かに私は、明日の予定なら具体的にイメージできる。「朝6時には自分の車に乗って、山登りに行く。運転は大変だけど、山頂で景色を眺めている自分」—こんな近い未来は鮮明に描ける。
でも5年後、10年後となると途端に曖昧になる。
目標達成の方法は山ほど思いつくのに、到達した時の自分がどんな気持ちでいるのか、どんな景色を見ているのかが全く想像できないのだ。
そして気づいた。私には確かに「思考系だ」
今ではコーチングを学んで、聞く耳を持てるようにはなったものの、仕事でも、プライベートでも、人が何かを言うと瞬時に相手の言葉に覆い被さるように「でも」「だって」が口をついて出る。以前は更に酷くて、理論武装して相手を論破することが、まるで反射神経のように身についてしまっている。
「これだけ考えたんだから完璧だ」「私が正しい」—そんな思い込みが、いつの間にか私を物語の『裸の王様』にしていたのかもしれないと少し恥ずかしくなる自分を発見。
思考だけに頼り過ぎると
誤解してほしくないのは、この思考力は確実に私を助けてくれたということです。仕事では、数々の困難を論理的思考で乗り越えてきた。分析、問題解決、戦略—これらは間違いなく私の武器だった。
でも、この武器だけに頼り過ぎていたために、大切なものを見失っていたのかもしれない。
人との摩擦。「また論破されるだろう」という諦めの表情。そして何より、自分自身の本当の気持ちや直感を無視し続けてきたこと。
マイコーチが口を酸っぱくして言っていた言葉が、ようやく腑に落ちた。
「みっちゃんは社交性とコミュニケーション力があるから、人と会って話をしながら違いを認識することが大事だよ」
あの時は正直、これが何を意味するかがよくわからなかった。
でも今なら分かる。相手を知ることで、「自分が正しい」と思っていた狭い枠の世界から、外側を知ることの大切さを、コーチは伝えたかったのだ。
##新しい視点との出会い
更に別のコーチとの会話で、さらに興味深い視点を教わった。
「自分もバリバリの思考系なんですが、最近では、不快な出来事を、自分の無意識が生み出した現象として捉え直してみたら?と考えることがあるんですよ」と。
最初はちょっと理解ができなかった。
でも思い返してみると、確かに「何かうまくいかないことが重なる時期」がある。そんな時、心のどこかで「これはそっちの方向じゃないんじゃないか」と感じている自分がいるのだ。
また、目標設定についても新たな気づきがあった。「体重を5kg減らす、いつまでに」という数値目標は確かに思考的だ。でも「その結果としての理想の自分の姿をイメージする」のは感覚的な作業だ。
つまり、思考と感覚は対立するものではなく、組み合わせることでより効果的な目標設定ができるのかもしれないと時間が経つと思えてくる。
##サウナで整えるとは
最近、毎日温泉に通ってサウナに入っている。これが思いがけず、私の「思考を止める」練習になっていることに気づいた。
サウナの中は暑すぎて、いつもの思考が働かない。その後の水風呂、そして外の椅子でぼーっとする時間—これらは完全に思考を止めている貴重な時間だった。
以前、ヨガの体験ワークで瞑想した時、初心者なのにすぐに瞑想状態に入れて先生に驚かれた。
以前なら、瞑想タイムといえば疲れて寝てしまうか、瞑想しながら色々と考えを巡らしていることが多かった。
今思えばサウナでの経験が活かされていたのかもしれない。
思考と感覚の融合へ
思考系の強みは残しつつ、感覚的な情報もキャッチできるようになりたい。そのために:
日常の実践として:
– イメージが浮かんだ時の「またまた、無理でしょ」という声を止める
– 不快な出来事を「無意識からのサイン」として受け取る練習
– 決断の際に「体がどう反応するか」を観察する
– 目標設定時に数値と理想の姿の両方を描く
人との関わりで:
– 「でも」「だって」の前に一呼吸置く
– 相手の感覚的な意見を論破せずに受け取る
– 異なるタイプの人から学ぶ姿勢を持つ
これまで思考だけで突き進んできた人生に、感覚という新しい羅針盤を加える。きっとそれは、目標達成をより加速させるだけでなく、人間関係や人生の豊かさも変えてくれるようになるのではないかと。
野沢温泉で見た真っ暗なスクリーンは、実は可能性の画面だったのかもしれない。これから少しずつ、そこに新しい映像を映し出していこうと思う。
思考系の人へのヒント
□ 完璧な計画より、心地よい方向性を大切にしてみる
□ 論破する前に「相手は何を感じているのか」を考える
□ 数値目標と理想の姿の両方を設定する
□ 日常的に「思考を止める」時間を作る
□ 不快な出来事を「気づきのサイン」として受け取る
思考系の私たちにとって、感覚は未知の領域かもしれません。でも、その未知なる力を味方につけた時、きっと新しい世界が見えてくるはずだと思う今日この頃です。