「寄付」と英語で書かれた袋を、友人がホテルの部屋に置いていったのは、メキシコ・カンクンへの旅行最終日のことでした。
その袋には、まだ十分着られる状態の服が入っていました。不思議に思って尋ねてみると、そこには興味深い理由があったのです。
チップ文化に潜む経済的優位性
私の友人は、アメリカに住んでいるやや富裕層の日本人です。
アメリカでは、チップ文化が普通で、サービスに対しての感謝の印なのですが、それは対等性というより、お金を支払う側(客)は、サービス提供者に対して経済的優位性を持っています。
アメリカは、寄付文化が当たり前のようにあり、それはお金だけでなく衣類とか日用品もあるようです。
今では、メルカリのような古い物でも必要な人にお届けするシステムがありますが、日本人同士だと、古着をあげるにはなんとなく失礼かなぁと思うことが多いので、ブランド品を除いては、ほとんど捨てることが多いように思います。
友人と旅行したメキシコは貧富の差が大きい国です。
友人は、ホテルで働くメイドさんたちに、使える服や物をチップと共に寄付として残していくようにしているとのこと。
「寄付」と明記することで、それが忘れ物でも盗品でもないことを示し、必要な人が自由に持ち帰れるようにする工夫なのです。
TPOをしっかりと使い分けることは安全面で優位に
この経験は、私の旅の荷物に対する考え方を大きく変えました。それまでの私は、多くの人がそうであるように、旅行には新しい服や素敵なカバンを持って行っていくこともありました。
特に1〜2泊の国内旅行では、新調した服でおしゃれを楽しむことも、旅の楽しみの一つでした。
しかし、海外旅行は少し違います。
確かに、ヨーロッパでオペラを観賞したり、高級ホテルでディナーを楽しんだりする時は、ドレッシーな装いが場を盛り上げてくれます。しかし、それ以外の観光時には、実用的な服装の方が断然重宝します。
実は、日本人とヨーロッパ・アメリカ人では、服装に対する考え方に興味深い違いがあります。日本人は普段からきちんとした服装をする傾向にありますが、パーティーなどでもその延長線上の無難な服装に留まりがちです。
一方、欧米人は普段は短パンにTシャツというカジュアルな格好でも、パーティーとなると驚くほどドレッシーに装います。TPOをしっかりと使い分けているのです。
これは、旅の場合は安全面でも非常に有効です。
流石にカジュアルな服装の人からお金を盗むより、いかにもお金が入っていそうなブランド品のバッグを引ったくったほうがお金になるでしょう。
旅の気持ちはより軽やかに
今では、海外旅行の予定が立つと、季節の変わり目に処分予定の服をあえて取っておくようになりました。
それらを旅行中に着用し、最終日に寄付として置いていくのです。
これにより手荷物が減り、お土産のスペースも確保できる。さらに、誰かの役に立てる可能性もある。まさに一石二鳥、いや三鳥の方法です。
今回予定している南米旅行では、この方法が特に役立ちそうです。
今回の南米旅行は、どちらかというと登山服の延長線上にあるように考えています。その理由は、一日の中で四季があるように寒暖差が激しく、また歩く機会が多いので多種多様な洋服が必要になるからです。
そのため、実は、もう手放してもよいような服を意図的に持っていこうと考えています。
特に娘は、学生から社会人になるタイミングで、たくさんの服が不要になるので、意図的に要らない洋服をスーツケースに詰めています。それらの服に新たな役割を与えることもあるかもしれません。
また、紛失を心配する必要のない服ばかりを持っていくことで、旅の気持ちはより軽やかになります。
使い終わった服たちが、誰かの役に立つかもしれない。
そうでなくても、自分の新陳代謝のキッカケにひと役買ってくれそうと考えると、スーツケースに詰める一枚一枚の服に、特別で、軽やかな気持ちが生まれてくるように感じます。